はじめに
プログラミングスクールで指導していて思うことは、多くの生徒さんが(正しい)教科書の読み方を知らないということです。
ある生徒さんに、最低3回は教科書(60ページ程度)読んできてという宿題を出していましたのですが、1週間後レッスンで理解度をチェックすると、理解どころか、何一つ覚えていないんです。
最低3回も読めば、大まかなイメージは湧いてきます。実際に3回読んだらよく理解できたという方もいらっしゃいました。
しかし、一定の割合で、何回読んでも理解できないという方がいらっしゃいます。
私も時々ちゃんと理解しないまま読み進める時があるので、はっきりと出来ている人、出来ていない人と2分する事はできないのです。出来ている人でも気を抜いてしまうと、同じような状況に陥る事はよくあります。
私はスクールで講師として働くと同時に、心理学や脳科学、勉強の本をいろいろ読み進めてきたのですが、最近は認知心理学というのを特に読んでいます。
教職についている方ならご存知だと思いますが、認知心理学(認知主義の心理学)は人間の認知(物事をどのように認知し、認知構造をどのように変えていくか)が研究されています。
認知心理学はまさに理解とは何かについての学問なので、認知心理学の応用として、教科書を理解する方法、正しい読み方をこの記事にまとめてみたいと思います。
理解とは何か
そもそも、理解とはなんでしょう?
認知心理学上の理解(認知)には2種類あります。ボトムアップとトップダウンです。
ボトムアップは、数学上の定義のように、下から言葉を積み上げていって出来る用語のことで、トップダウンは周りの状況などから掘り下げていって認識することのできる用語です。
誤解を恐れずにいうと、イメージはできているけど定義できない言葉、例えばリンゴや家などのように、普段私たちが会話で使っている言葉がトップダウンで、定義は言えるけど、イメージはできない、数学で出てくる難しい概念のようなものがボトムアップです。
トップダウンであれば、そのものを含めて周りの状況や文脈も理解しているので、会話で自然に使うことができたり、図として頭の中にイメージが湧きます。
ボトムアップは言葉ではわかっているけどイメージできないので、会話で使えたり文脈の中に含まれると途端に意味が分からなくなります。
小説などの比較的わかりやすい文章は、トップダウンの用語で構成されています。
教科書を読む難しさ
トップダウンで理解している用語は、周辺情報やイメージを含んだ理解なので、
「昨日やっと小さな実になったと思えば、次の日には風船のようにぷくっと膨らんで、真っ赤なリンゴが鈴なりになっていた」
リンゴについての定義や学名は知らなくても、この文は頭の中でイメージできるかと思います。
ボトムアップで理解している用語は、定義はわかるけど、文の中に入ってしまうと、途端に状況が理解できなくなります。例えば次の文、
「条件付きだが、任意の関数は、周波数の異なる三角関数の和で表現される」
高校数学を思い出してみると、関数や周波数、三角関数、和といった単語は全部聞いたことがあるし、調べれば定義を思い出すことができます。しかし、それらが組み合わさり文になると「何をいっているんだ?」と理解できなくなります。
本はこのような文の集合体ですから、1つ1つの文の意味が理解できなくては全体の意味を理解することもできません。
つまり、文や本の内容を理解するということは、単語や文全体がトップダウンで理解し、頭の中にイメージが描けている状態になっている必要があるのです。
小説が読みやすいのは、小説の中の文が、トップダウンで理解している単語から構成されている、常に情景を思い浮かべながら読み進めているからです。文を読みながら状況をイメージし、全体を見渡すことができます。
一方教科書は、常に新しい単語や解説が出てきます。初めて見た単語というのは、まずボトムアップで理解します。その後、その単語の使い方や周囲にある単語、あるいは自分でイメージするなどしてトップダウンで理解していきます。
しかし、教科書を読むのが苦手な人は、初めて出てきた単語に対してトップダウンで理解しようという作業を省略してしまいます。とりあえず単語の意味(定義や解説)が言っている事は分かったというところで止まってしまうんですね。
そうなると、文の中で単語を使ったときに、文全体を理解できず、教科書全体を理解することができないのです。これが教科書を読む難しさです。
ただ読むだけではなくて、新出単語や出てくる文をトップダウンとして理解する作業が必要なんです。
どうすれば読めるようになるのか
では教科書はどのようにすると読んで理解することができるようになるのでしょうか。
答えはほとんど出ていますが、新出単語やそれを使った文をトップダウン的に理解することです。
より具体的には、単語の説明を読んだときに、同時に絵や図を書いてみて、自分なりの解釈をつけるといいです。
文の理解に対しても、単語はトップダウン的に理解できていても、文はボトムアップだと全体を俯瞰して理解することはできないので、絵や図を書いたりして全体をイメージする作業が必要です。
この方法自体は実は目新しいものではありません。
小学校の算数で「電車のすれ違い計算」や、「池の周りを二人の人物が回る計算」をやったと思います。
その時、問題文だけでは理解できないことも、図を書くと解き方が分かってしまうことがよくあります。学校の先生もよく言っていましたね。
これも問題文を読むだけではボトムアップ的な理解ですが、図を書くことによりトップダウン的な理解をすることができ、問題文をよく理解できるので解くことができるようになるのです。
同じ考え方で、英単語を覚えるときも、単語と日本語訳のセットだけでなく、例文も一緒に見るというのは単語を理解する上で非常に大切なんだと分かります。
単語の日本語訳というのはつまりボトムアップ的な考え方ですね。対して例文というのは、その情景がイメージできたり、周りの単語との関係性も見えてくるのでまさにトップダウン的な理解につながります。